ビビッド・ミッション、お任せを
         〜789女子高生シリーズ
 


     
終 章



この冬は格別の寒さに襲われた日本列島で。
師走からのずっと、間断なく、容赦なく冷え込み続け。
二月に入ってからは
“花見どきほど”という気温になった日もなくはなかったけれど。
翌日にはもう10度近い落差で冷え込むという急変が襲い、
体調を崩す人への追い打ちにしかならなんだし。
台風並みという大きさに発達した低気圧が、今年も猛威を振るいもし。
例年大雪に見舞われておいでの、東北や北海道の人々にさえ、
対処に困惑するほどの、雪とそれから強い風とに襲われもして。


  それでも少しずつ少しずつ、
  春はやって来つつあるようです。


緋毛氈を敷いた段には、
胡粉でつややかに仕上げられたる白いお顔のお雛様たちに、
細かい細工を施されたる、
小さな小さな輿入れのお道具がいっぱい。
そしてそして、
赤に紅に、紫、紫紺、
水色、橙、淡緋に若草。
蔓に唐草、絞りに鹿の子。
芍薬や小菊がちりばめられているかと思えば、
細帯と入り乱れつつ幾つもの扇が舞い散っていたり。
金や銀の真砂が散る中、錦の手鞠が躍っているもの、
慶雲が沸き立つ狭間に牡丹に飾られた御所車が佇むものや、
こまやかな刺繍で描かれた極彩色の小鳥が飛び交うものまでと、
春を意識した、
それはそれは瀟洒で艶やかな色や絵柄のものばかり、
様々に取り揃えられた着物の数々を、
小さなお膝の回りを埋めるほど広げられ。

 「わあ…。」

まだまだ幼いはずが、それをそれと思わせぬ大人顔負けの威容で、
武装も厭わぬという荒ごと仕立てで
幼女を拉致監禁していた犯人一味を相手に、
一喝をもって黙らせた皇女さまだったものが。
今は、見事な織りや染め、鮮やかな図柄の数々に、
すっかりと魅了されての見ほれておいで。
大きな懸念も解決したことだしと、
それまでは控えておられた
様々な会見だのレセプションだのへの出席も復活しての、
忙しくなられよう身なのを見越してのこと。
そうなる前にという取り急ぎ、

 『女の子のお祭りを催したいのですが。』

例のメアドへお伺いを立てたところ、
勿論、お受け致しますとのお返事をいただいてのこの集い。
日本画の大家・草野画伯の屋敷ということで、
特にどこへかの偏向もなしという訪問だったため、
無理からのオフリミットとされることもなかったお出掛けで。
黒塗りのいかついベンツから降り立った
小さな皇女を出迎えたのがまた、

 『ようこそいらっしゃいました♪』

紫や暁色、深紅という
それぞれの個性を匂わせる色を基調としての。
揃って晴れ着姿となった、
当家の令嬢とそのお友達という華やかな美少女ぞろいとあって。
門前まではOKとされた取材の方々も、
うあ、なんて華やかなとか、ひな祭りにはふさわしいとか、
ただただ誉めそやするばかりだったということだったが。

 「気の利いたことを考えたな。」

いつぞやに随分と居丈高な乱入してくれた、
結局、名前も知らないまんまのどっかの担当官殿は。
役に立たないことこの上なかったせいか、
そのまま“お役御免”と退場させられたらしく。
そんな青二才に引き換え、
ほんの一刻しか同座せずとも事情を深く察してくださり、
融通も利いての、正に打ってつけの人材なのでと。
護衛という名目で同行して下さいと依頼された格好の、
蓬髪にお髭の警部補殿もまた、
お褒めの一言、こそりと下さったので。

 「いえあの……。///////」

ちょいと席を立った隙をつき、
こちらはお廊下に立っていた壮年殿が、
すれ違いざま、小さなお耳へ囁かれた罪な一言へ。
白百合さんがたちまち真っ赤になったのもお約束。
ほのぼのとお楽しみなのへ水を差しても何だと思ってのこと、
先の騒動に関してを触れない警部補…なのではなく。
もう既にお説教は済ませておいでだったから、であり。

 『結果としては、
  四方八方 丸く収まったようだったとはいえ、だ。』

今度こそは危なかったのだぞ、判っておるのかと。
島田警部補のみならず、
榊せんせえや片山五郎兵衛さんも顔を揃えてという、
本腰入れてのお説教を授かったのが、
あの、人質奪還のための突入大作戦を敢行した日の午後という、
息つく暇も与えぬ、速攻でのことだったそうで。

 『しでかした直後に叱らねば、
  何が悪かったのかが伝わらなくて、叱る効果がないからな。』

言われた途端、
そんな、人を躾けの要る犬猫みたいに言ってと、
微妙に膨れたお嬢様がただったのは。
果たして…既に反省はその胸中にて済ませていたからか、
それとも危機感への物差しが
大人様がたとは随分とズレていたからだろか…。




     ◇◇◇



たいそう埃っぽい騒動の現場へ降り立ったハニ皇女は。
実は彼女の影武者だったという幼女を誘拐していた一味の者らへ、
よそ様の国でこれ以上の恥をばらまくなと一喝した末、
現地の警察からの投降要請に応じさせての一網打尽にし。
どう処断するかは担当所管による裁きを待つとしてのとりあえず、
自国への強制送還へと運んでもらっての一件落着とし。
そのまま友好大使としてのお務めに戻られたそうで。

 「ああまで鮮やかに、
  しかも大人に任せず指図も受けず、
  ご自身の威容と処断とで収拾をつけられたものだから。」

一応は内聞にということになっていたものの、
広く公開にされなんだだけで、
この経緯は関係筋とやらへあっさりと伝わったのだとか。

  …と、なれば

外交を進めようとおいでになられたものの、
実は国内の意見はまとまってないのではないかとか。
民主主義をしきつつも
肝心なところでは王政の独裁専横が健在な国情なのじゃあないかとか。
対外的にあんまり芳しくない懸念をされかねぬところが、

 「皇女に対して
  “どうせ物見遊山だろう”なんて甘い見識でいた面々へは、
  とんでもないぞというのがよく判る、
  格好のプレゼンテーションになったようでな。」

そういう“特別仕様の大人の世界”に、
関心はないが通じてはおいでらしい、警部補殿の言うことにゃ

 「王族とはいえ まだ子供だから女性だから、
  所詮は“お飾り”だと思っていたらば大間違いぞと。
    思わぬ素顔を見せたことで、
  実は一番のご意見番だからこそ日本の様子見に送られたお人で、
  対外的なあれこれへの発言権もあるが、
  そうは見せずに油断をさせるという“刺客”なんじゃなかろうか。
  だとしたら、態度を改めないと後でこわいぞ…という、
  呆れるような“手のひら返し”という結果も導いたらしくてな。」

前々からも事情通の間では言われていたこと、
されど、頭の固いおじさんたちには
“まさか”と一笑に付されていたらしいものが。
皇女ご本人の一声で、
むくつけき10人近い拉致犯一味を投降させ、
しかも、
国内にいての犯行を示唆したとされる陣営も
徹底して捕縛せよとの 厳命というレベルでの檄が飛んだ…という話が、
こっちの政府高官らの間へ一気に広まったらしく。
そうまで実行力のある姫様だったとは知らなんだ、
発言権がないなんて誰が言ってたんだよ、おいと。
そうまで極端な言いようではないながら、
それとほぼ近いやりとりが、恐懼をもって関係筋の間で交わされたのは事実。

 『今や“レアメタル”というフレーズを知らないでは、
  少なくとも工業団体や財界から、強力な支持を募れないほどのブツだしね。』

そういう背景を負ってられたので、
そも、粗略な扱いをされていた訳ではなかったものが、
ますますのこと、畏れ多くもという扱いになっただけ。
国情への色眼鏡が分厚くなったという恐れはないみたいだ…と。
これは、平八が懇意にしている、
工学博士の助手の人が言ってたことだそうで。
そちらさんも、トップはともかく周辺の方々は、
支援を得ねば研究も進まぬと心得ていてのこと、
マネージメント専門の方がいるくらいという研究班だそうだから。
事情にも通じている人の評、まずは間違いのない情報だろうとのことであり。

 「大人たちって、
  用心深くなりすぎて 却って話をややこしくしてない?」
 「それ言えてる。」
 「…胃炎。」

だよねぇ、胃だって痛むわ そりゃあ。
文字通りの自業自得〜、なぞと。
そういうお堅い話題を、
井戸端会議の場のお題目に引き摺り降ろしてしまう逞しさを見せたのが、
それも頷けよう大暴れをし、
事態打破の主役となった、三人娘だったのだけれども。

 「危険なことへ首を突っ込むなと、
  いつもいつも言って来たのだがな。」

 「う…。」×3

此処は毎度お馴染み、甘味処『八百萬屋』のお隣り、
やはり片山五郎兵衛氏がオーナーとして、
不定期営業しているスタンドバーで。
ちょっとばかり特殊な関係にあるこちらの顔触れが、
こそりと人知れずの会合をもつときなぞに 主に使われており。

 『そういえば、
  勘兵衛様たちは、一体どうやって、
  あの場へ駆けつけることが出来たのですか?』

だって、
国交のない国の人たちによって展開されている事態であるだけに。
犯人側にさえ治外法権という特権がかかっているわ、
恐らくはの被害者側もまた、コトを公けにされたくはないらしいわと、
そんなこんなな“大人の事情”があってのこと。
紛れもなく日本の、しかも白昼の街なかで起きた騒ぎだというに、
正当な聞き取り捜査をすることさえ出来やせぬこと、
でもでも、仕方がないのだよと、
肩をすくめるばかりでいらしたはずなのにと。
だっていうのに、ああまで的確に、
敵方のアジトだった工業用地の端っこの廃工場なんてところへ、
しかも、彼女らが強硬突入した頃合いを見越したように、
包囲陣を率いて駆けつけることが出来たなんてと。
一味の方々を、とりあえずの収監先へ移送するための
中型移送車まで用意して来た警部補だったのへ、
真剣にワケが判らぬと小首を傾げ。
それを見届けるともう用は済んだということか、
それでも、こちらへ深々とお辞儀をしてからながら。
セダンへ戻るとホノカさんやミズキちゃんと連れ立って
とっとと戻ってしまわれた某国の皇女様を
此処へといざなって来られた格好の、

 『またまた、良親様からの連絡あってのこととか。』
 『まさか。』

そうそう出し抜かれてばかりいると思われるのは、
さすがに心外なことだったか。
それへは征樹さんが、
すかさずという間合い、振り払うように声を挟んで来たし、

 『あれが皇女について来たのは、こちらへも意外だったのだがな。』

勘兵衛も苦笑をして見せて。

 『儂らが監視していたのはお主らだけだ。』
 『………はい?』

まだ公言出来ない事情で秘密裏に来日中の皇女、
そんなお人づきの侍女が不審な外出…というのへは。
彼女自身への危難ではなく、
皇女への脅威の片鱗だろうと、さすがに彼らにも察しはついたし。
本国の情勢から、暗殺とまでの強行策は執られないにしても、
強硬派の横槍か脅迫がかかっているなというのは明白。
良親が加担しているのも、そんな一味を撹乱するため、
あわよくば実行犯を取っ捕まえて、
本国の黒幕にじたばたとした逃げ口上を言わせぬためだろうと、
そこは七郎次とさして変わらぬ目串を刺しており。

 『案の定、七郎次と平八で久蔵の自宅へ集まって以降、
  自宅へは戻らなんだであろうが。』

 『うう…。』

 『そこで、兵庫殿と五郎兵衛にも連絡しておいて、
  動きがあったらすぐにも知らせるようにと構えておったのだがな。』

 『な…っ。』

憤るのは筋違いだぞ? まさか突入してしまおうとはなと、
さすがに笑ってもおれないか、
口許引きしめ、目許も眇めた呆れ顔になっている勘兵衛で。
ちなみに、ご自身の部下のみならず、
機動隊の方々まで連れて来た彼だったが、

 『ああ、あれは。
  籠城犯への対応訓練だと、今朝はやくに申請して、
  許可証が下りる前に、顔見知りを掻き集めて連れて来た。』

場こそ荒れていたものの、
乱闘とか突入とかいう荒ごとにはならなかったので。
移送車へ収容するのを見届けてののちは、
現地解散、お疲れさんと、各自で帰っていただいたそうで。

 『勘兵衛さんて、意外と人望あるんだねぇ。』
 『…ヘイさんたら。//////』
 『なんてシチが。』

照れているかなと、こちらは久蔵が小首を傾げたことで、
一連のどたばたの幕が下ろされた格好な現場から、
半日ほど経った午後のひととき、だったのだけれども。

 「テレビゲームや映画や、格闘ものの漫画の主人公のように、
  大怪我を負っても歯を食いしばればまだまだと戦えるとか、
  日頃へらへらしてる奴でも、
  生まれて初めての根性を出せば、
  何とか乗り切れるものだとか思ってる節があるらしいが。」

いかにも蓄積深い身であること知ろしめすよな、
彫の深い精悍なお顔、想いも深くの真摯に引き締めて。

 「そうまでの痛手を受けていて、
  そこまでの気力が出せる戦士なぞ、そうそう居るものではない。
  現実とはそう上手くは回らぬものぞ?」

今時の、そら恐ろしいことを恐れぬ困った若いのへの説教というもの、
重厚な響きのお声で、お嬢さんがたへ語った壮年殿だったものの。

 「……。」
 「それを勘兵衛さんが言いますか。」

こちらはこちらで
“前世”でのあれこれを ちゃんと思い出してるお嬢さんたちだったので。
もしかして今より高齢だったにもかかわらず、
凄まじい太刀さばきや体力を発揮し、
途轍もない高低差も物ともせずに、乱戦中の戦さ場を跳び回っての大暴れをし。
火器を被弾して怪我を負っても、そのまま戦い続けた大将殿が、
そんな殊勝なことを言っても説得力がないということか。
忘れてるんならと言わんばかりに言い連ねかかる、
主にはひなげしさんだったものだから。

 「勘兵衛様、この子らとどんな合戦をなされたんですか。」
 「……。」

同じ“転生”組でありながら、
大人たちの中で唯一、例の少数精鋭による合戦を知らない立場の征樹殿が、
微妙に目許を眇めたのは ままともかく。

 「そのくらいは、判っておりますよ。」

まぜっ返したのはご愛嬌だとし、
勘兵衛の言い分も重々判ってはいる彼女らで。
彼の言う、文字通りの“怖いもの知らず”な人たちと、
一緒にされるのはこっちでも御免だということだろう、

 「突入していただいた久蔵殿や、人質となっているミズキちゃんに、
  出来るだけ安全に出て来てもらえるようにというの、
  一番外せないこととして、何度も何度も算段しましたし。」

たった3人という頭数で、しかもあのような閑散とした場所。
実際に立ち回るのは か弱い少女たちとあって、
重機や重火器を持ち出せるでなし。
無人の広野では、
居合わせた人たちを煙幕やパーテーション代わりに出来るでなし。(こらこら)
そこで、あの廃工場を強い振動によって解体させるという、
破天荒と紙一重、随分と思い切った策を構えたのだし。
もしかして地震か?という、突発事態…という名のどさくさに紛れさせ。
壁や天井、どこがどういう順番でどう落ちるかを、
彼女の得意とする工学系、
力学や構造学の複雑な計算に計算を重ねることで、
落下物がそのまま楯になるような逃走経路を割り出し、
それを久蔵自身へも叩き込んだという。
破天荒だと思わせての実は、
これまでにはないほど綿密な策を平八が執ったのも、
下手を打てばそのまま、彼女らの身が危険だと重々判っていればこそ。
そんな下敷きや下準備があってこそ、

 「…何も。」

さすがの機巧(からくり)マスターっ娘で、
用意された様々な道具も役に立ったし、
リハーサルなぞないも同然、いきなり本番だった その逃走経路へ、
実際、何も落ちては来なかったし、
落下物が見る見る障壁になってくれたので、
余裕で外へとさくさく逃げられたこと、その身をもって体感した久蔵が。
困惑を誘うようなアクシデントも起きなくての、計算通りだったぞと。
自分よりもやや小柄なひなげしさんを懐ろへと引き入れ、
小さくてやあらかい身を むぎゅぎゅと、
ご褒美のようにして抱きしめたものの。

 「だがな…。」

そんな紅ばらさんを見てだろう、
何か言いかかった黒髪の外科医のせんせえのお声を遮って、

 「いいえ。それは結果論ですよ、久蔵殿。」

珍しくも抱きしめてくれた、紅ばらさんの不器用な優しさは享受したいか、
ほてんと凭れたまんま、こちらからも腕を回しての堪能しつつ。
でもでもと、みかん色の髪を揺さぶり、かぶりを振った平八で。

 「今回のは本当に、危険極まりない代物だったんですもの。」

事前に、彼女も敢えて口にしたこと。
相手がどんな武装をしているかが判らない事態だったし、
価値観や正義の有処(ありか)だって、
自分たちとは大きく異なってるだろう人たちが相手だったので。
立ち塞がる障害へは、
それがたとえ年端も行かぬ少女たちであれ、
容赦なく銃を向けてしまう恐れは大有りだったし。
現に、ミズキを連れてのそのまま
脱出を果たしてしまわんという状態にあった久蔵へ向けて、
銃を構えた男がいたほどでもあって。

 「……。」
 「林田…。」

理屈が達者なお人のはずが、皆まで言えず、
口元がわななくのを見せるのはいやか、お顔を久蔵の胸元へ押しつける平八で。
一番俊敏だし、自分がやると進み出たこともあってと、
久蔵へ任せはしたけれど。
自分が立ち回ることへではない仕儀だのに、
こうまで危なっかしい段取りしか組めなかったことへ。
外での分担をこなしつつも、そりゃあ歯痒いと思ってたろうし。
外へ出て来た久蔵の姿が、だが、
銃声と同時に煙幕の中へ見えなくなったのへは、
そら恐ろしい想いをした彼女だったのだろうと忍ばれる。

 「ヘイさん。」

大丈夫だよと、髪やら肩や背中を そおと撫でてやる久蔵とは反対側から、
そんな彼女らを二人とも、ぎゅむと抱きしめたのが七郎次であり。

 「待ってるだけの身の辛さは、
  アタシもようよう知っておりますよ。」

無茶をしないに越したことはないし、
何より、

 「ええ、ええ。
  戦さのあれやこれやと、
  一緒にしちゃあいけないことですけれどもね。」

それこそ、国だ軍だという大きな組織がかりであたっていた代物。
さまざまな思惑の寄り集まった、形なんてない塊の中、
個人の意志なぞ知ったことかと蔑ろにされつつ、
好むと好まざるに関わらず、刀や銃を手に手に戦いの渦中へ放り出された大戦の。
何と渦々しいものだったかという記憶があるなら尚更に。
友や家族、待つ人や恋しい人がいるというに、
その身や命を粗末にすることが、
どれほど身勝手で罪深いかも重々承知しているが、

「何も、何でも出来るなんて自惚れてはいませんし、
 望めば何でも叶うなんてことも、そうそう思ってもいませんが。」

  現実は思う以上にデジタルで無慈悲だし、
  神様はやっぱり見てるだけだと知っている。

だから、一途な努力が大事なのだし、
こつこつ積み上げた経験則は裏切らない。
鍛練だけへの話じゃあなくて、
人と人との信頼や、絆っていうのもそうだってこと。
正直がすぎれば馬鹿を見るとか、
騙される方が悪いとかうそぶく人は、でも、
そうと吼えつつ、見るに堪えない顔になってるって、
きっと気がついちゃあいなかろう。

  そんな詰まらない人には
  なりたくなかったから、あのね?

「でもね、普通の人よりかは出来ることがあるってのに。
 しかも、事情にも通じてしまったのに。
 それなのに、じっとしてはいられなくって。
 それで駆け出してしまっただけなんです。」


 ―― 心配かけてごめんなさい。
    こうして面と向かって謝ることが出来て、
    順番や理屈がおかしいかもですが嬉しいです。


  ヒョーゴの“馬鹿メ”は、
  ちょっと口惜しそうな顔なの知ってたか?
  危ないことさせちゃったって、自分へも怒ってるからだ。

  ゴロさんは言葉で叱らないけど、
  大きい手で頭を撫でてくれるまで
  怒ってるんだ…心配したのが引かないんだって判るから。
  待ってる沈黙の間じゅう、ずっとドキドキするんだよ?

  勘兵衛様は、自分の不徳と何でも引き取ってしまうでしょう?
  言葉が足らなんだかなとか、力不足と思われているのかなとか。
  だから余計にいい子でいたいのだけれども、
  頭に血が上ると つい駆け出してしまう、
  まだまだ至らない子で、本当にごめんなさい。

それはそれは真剣真摯に謝ったお嬢さんたちだったので。
互いの目があったから…ということもないのでしょうが、

 「いや、まあ無事だったのだし。」
 「ヘイさんこそ、もう落ち着いておるのかの?」

とんでもないにも程があると、叱る気満々だった榊せんせえが。
照れからか視線が定まらぬまま、
されど たわみかかる口許をこぶしで隠しており。
逆に五郎兵衛さんは、いたわるようなお声で問いかける中、

 「……。」

彼だけは、さして表情が動かぬままだった勘兵衛だったが。

 「   〜〜〜〜。////////」

何も言われず、何とも反応をされずの七郎次が、だが。
じわじわじわと真っ赤になったその上、

 「………先に帰りますね。」

そういえば、自分だけはお邪魔かもだなと。
話の流れから察したらしい征樹殿が、そそくさと立ち上がったのもまた、

 『勘兵衛様からの凝視ってのがネ、
  傍からは判りにくいんだが、
  いろいろな種類に分けられるらしくって。』

語らずとも…の語りになっているものか、
見つめられるだけで何かしらの効果を醸す
そういう見つめ方ってのがあるらしくって、と。
そんなワケだったんだよとの裏事情、
後日にお嬢さんたちへ暴露しちゃったりしたものだから。

 『まぁま、何てふしだらな。』
 『島田…。』
 『〜〜〜〜〜。(うあ〜〜)/////////』

  どちらさんも不公平なしに、
  甘い何かを堪能されたらしいということでvv
  今回の大騒ぎも一応のキリと致ったようでございまし。



春も間近な、三月弥生。
かつてないほど厳しかった冬を、えいやっと蹴飛ばして。
シュガーピンクの花霞まとって駆け出すヲトメらは、
恋してる限り、まだまだ立ち止まったりはしなさそうでございます。








    〜どさくさ・どっとはらい〜 13.02.30.


  *何かグダグダな終わり方ですいません。
   もしかすると勘兵衛様とて、
   スタンドプレイになったことを僻んだクチから、
   勝手をしおってとか、面子を潰されたとか。
   後から辻褄合わせなぞとは、
   そんな不法行為の前例を作ってどうするかとか。
   グチグチとねちっこい厭味の一つも言われることでしょうね。

   「そういうのが窮屈だなと思うお人なら、
    とっくの昔に、俺が声かけて、
    頼もしいブレーンになってもらってるところだが。」

   「…出たな、二股膏薬。」

   佐伯さん、そういう特殊な用語を元同僚へ使うのは…。(笑)
   きっとこの良親殿にしたっても、
   何食わぬ顔で久蔵お嬢様の護衛の任にも戻るんでしょうよね。
   まったくもうもう、大人って。(えー?)

  *ハニ皇女が登場した、別のお話はコチラです。 『
凍夜一景
   混乱はなかったのかな、皇女様。(笑)

ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv

メルフォへのレスもこちらにvv


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